是枝裕和×ケン・ローチ 残しておきたい言葉

NHKのBS1で放送された対談番組。

万引き家族」でパルムドールを獲った

是枝裕和監督が

師匠と呼ぶ

ケン・ローチ監督(83歳・イギリス)と語り合った。

二人はテレビ番組のディレクターからの転身が

同じであること。

そして、「家族」「貧困」「社会の底辺」に

視点を向けた作品を作り続けていることも同じだ。

「いま、労働者は力を失っています。

 そのしわ寄せで家族の貧困化や

 家族の崩壊が起きている」(ケン・ローチ

不寛容になった社会に

向き合い続けているのも二人の共通点だ。

是枝監督が、「万引き家族」に「犯罪を擁護するのか」

「自己責任だろ」っていう意見が

日本の恥部を世界にさらすなとネットで言われて

「実際に不正をして搾取している人たちは誰なのか」

という問いにケン・ローチ監督は

「私もお前は国の敵だとかいう批判を受けています。」

「社会を支配している者たちにとって

 自分たちの利益こそが国益だから。」

この対話の前に是枝監督は

ケン・ローチ監督の最新作「家族を想うとき」(12月公開)を

見て、

撮影対象の家族に誠実な愛情をそそぎながら

「いろんなところで怒っている」と評し、

登場する家族たちがなぜ自分がそうなっているのかが

わからないということを感想として言ったときに、

ケン・ローチ監督はイギリスでも不安定な

雇用状態に置かれているとして

働く側が常に自転車操業を強いられていることが

権利を叫ぶ力を失い、それが家族の崩壊につながっていることを

撮りたかったと。

また初期の作品「ケス」(1979年)を見て

詩的な映像の中にハヤブサ使いになることを

夢見ながら炭鉱労働者として地下に潜る現実を描いたことに

「主人公は空を飛ぶハヤブサに憧れてっていう

 その地下に潜ってっていうものの対比が

 本当に見事に描かれている。」と是枝監督。

これに対してケン・ローチ監督は

「鳥は自由に羽ばたいても

 少年のもとに戻ってきます。

 自由はあってもそれを選ばないんです。」

そして主人公の少年も技能をもたない

炭鉱労働者として生きる運命を選んだことは

「それは自由を手放すことです」として

社会が労働者階層に厳しい環境を押し付けて

生きるための選択を奪っていること、

「『自由と選択』をテーマにしています。」

また、「ダニエル・ブレイク」(2016年)では

病気や離婚でシングルマザーになった貧困層

セーフティーネットからはみ出される現実を

「非常にユーモアがあり、脇の人間たちの

 描写が見事」

「何度見ても泣いてしまう」と是枝監督。

「作られている作品の多くは

 なぜこのような事態が起きるのかということを

 非常に構造的に捉えようとされている

 非常に力強い作品だと捉えていますけども

 間違っていますでしょうか?」との問いに

ケン・ローチ監督は心掛けていることとして

弱者が置かれた現実をどう伝えているかを

全ての人が尊厳ある人生を送るために

「私は映画を通し、社会の構造的問題を明らかにし

 解決に導くべき」だと答えた。

それに対して是枝監督は

決して対立の構図(強者対弱者)に持っていくのではなく

その問題に対して

「非常に冷静なというか冷徹なまなざしがあるからこそ

 現実の複雑さに負けない映画が出来上がっているのでは

 ないかと」是枝監督。

それにケン・ローチ監督は

「そうなんです、

 私は弱い立場に立つ者を

 単なる被害者として描くことはしていません。

 なぜなら

 それこそまさに

 特権階級が望むことだからです。

 彼らは貧困層の物語に感動して

 チャリティーに寄付して

 涙を流しています。」

「(特権階級が)最も嫌うのは

 弱者が力を持つこと。

 だからこそ映画を通し

 普通の人の持つ力を示すことに

 務めてきたのです。」

そしてケン・ローチ監督は

是枝監督の作品について

とても素晴らしい、私の映画にも通じるものが

ありますねと語り

「実はそんな映画監督に出会うことは

 本当にまれなことなんです。

 お互いの興味や関心が似ているのですね。」

「私が好きなのはむやみにカメラを向けさせずに

 引いた絵を多用しているところです。

 まるで目の前で起きていることを

 淡々と観察しているようです。

 不自然な位置から撮影するとリアリティが失われて

 現実に起こっていることだという説得力が

 なくなってしまいますよね。」と評価した。

実は二人の撮影と演出は

限りなくドキュメンタリーに近い手法をとっている。

ケン・ローチ監督は、「家族を想うとき」の撮影では

演技経験はないが

労働者階級にいる素人を脇役に起用し

さらに脚本の段階で徹底的な取材を重ね

台本の流れは必ずしも決定済みでないことを

スケジュール表にも書き

また監督と役者とは議論をすることがありますと

但し書きも書いている。

是枝監督も「誰も知らない」

子役には台本でセリフを覚えさせるのではなく

直に現場で説明をしたり

オーディションの段階で

「あまり統一感がないように

 『家族』という形を求めて集まっている

 描き方をしたいと思った。」

「生の感情、演技ではないアクションを引き出すために

 子どもたちをだましていく

 そのことに対する後ろめたさをひきずっていて

 (ケン・ローチ監督に初めて会ったときに)質問して

 答えていただいて

 信頼関係があれば役者と監督の間で

 相違があっても回復できると」

ケン・ローチ監督もそうですと答えた上で

利用したり恥をかかせるのではなく

子どもたちにも自分たちの価値を

感じられるようにしなければならないと

それが実感するならきっと応えてくれるはずだと。

ケン・ローチ監督も

万引き家族』で

安藤サクラさんの演じる役が取調室で

涙を流している場面に心が揺さぶられたと言い

「あれはファーストテイク(一発撮り)なのか?」と

是枝監督に質問したら

そうですと答え、

台本には刑事側の質問は書かれていないと、

ではどうしたかというと

両方の役者はなにを聞かれるのかをわからずに

あそこに座っていて

監督が質問の内容をホワイドボードに書いて

刑事役にそれを見せる方法をとったと。

(これには私もびっくりした!)

「私たちはマジョリティの声になるべき。

 ごく一握りの裕福な人たちの声では

 ありません。

 豊かでも映画スターでもない

 普通の人たちの声に

 なぜなら私たちには

 人々に力を与える物語を

 伝えていく使命がある。

 自分たちに力があると信じられれば

 社会を変えるかもしれない。」(ケン・ローチ

この言葉たちには

映画ばかりではなく

私たちの生き方にも大きなヒントを与えるもの

ばかりのような感じがした。

自分の周りの現実をみつめること。

受けとめられるものと

そうでないものを見極めること。

そして声を上げる自由があることを

自分の未来のために

いかに生かしていくかの大切さを

考えさせられたからだ。

「右とか左とか社会主義とかではなく

 彼の中にはRockがいる。

 Rockが響いている。

 かっこいいと思います。」(是枝裕和

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(12月5日東京新聞芸能面より。ケン・ローチ監督最新作「家族を想うとき」

 は13日よりヒューマントラストシネマ有楽町などで全国公開される。)www.nhk.or.jp

www.nhk.or.jp