三上寛さんの本

次に掘り出し物だった本は、三上寛さんの「北津軽郡東京村(1976年・津軽書房)」でした。三上さんの名前は、フォークミュージックをよく知る世代の方々なら知っているかもしれません。青森県小泊村の出身で高校時代から作詩やギターをはじめて、高校を卒業後警察学校を半年で中退後に上京、さまざまな職業を経て歌手デビュー。私もNHKーBSの番組でその歌で聞きましたが、迫力のある歌声の中にもなにかホロリとさせるものを感じました。本の内容もその歌と同じように、今以上に多くの文化芸術が混濁していた70年代を真っ向から見つめて、自分流に激しく語り訴える。でも押しつけがましいものは一切なく「地に足がついている」物言いが時代を越えて、「つぶやく」ことしかできない現代に生きる人間にも大いに共感させてくれる。故郷と東京を心の中で往復させながら想い歌う。そこに自己を確立させていく。これが歌手というものなのかと圧倒されるばかりでした。五木寛之さんと「愚連隊と青春」について語った対談や、ビートルズの思い出などもありました。この本を読み終えた後にTBSラジオの「永六輔の誰かとどこかで」を聴いていたら、三上寛さんの話をしていました。その中身とは、小泊村から五所川原の高校に通いはじめて初めて信号を見た、そのおかげで青森に出ても、そして東京に出ても信号に驚かずに済んだ。五所川原と青森、2つの「都会」を経由して大都会へ。だからこそ「北津軽郡東京村」という題名に「三上寛の世界」を合わせたのでしょうか。