「こころの医療宅配便 精神科在宅ケア事始」を読んで

統合失調症」かっては精神分裂症と呼ばれたこの病気にかかった時、
精神病院に入院して治療を受けなければいけないことは誰もが知っていた。
しかしこの精神病院の中には到底治療が出来る環境ではなく、
監獄のように患者を拘束し、時には暴行まがいのことまでして
人間の尊厳を無視するようなことをしていることがあるとしたら、
あなたはどう思うだろうか。
高木俊介著「こころの医療宅配便 精神科在宅ケア事始」(文芸春秋刊)は
これまで病院に隔離するだけだった統合失調症の治療とトータルケアに「在宅サポート」という
新しい形を導入させた精神科医の活動レポートだ。
筆者自身も精神病院の臨床医として長期入院する患者たちを見続けた経験から、
病気と向かい合いながら生きるためには、入院によって社会から隔絶されるよりも
治療を続けながら在宅生活をサポートしていけば、病状の軽減や一般的な生活が可能になると考え、
ACT(Assertive Community Treatment)−K(京都の略)をNPO法人で立ち上げたのだが、
最初のころは診療報酬の問題やスタッフ不足、そして病院やその周囲からの理解を得られないなど
大変な苦労があったという。しかしボランティアの協力などもあり
徐々にサービスを受ける患者たちから入院時代になかった
心の平静と前向きに生きる力が出てきたという。
この活動の重要なところは、「病気を治す」といった医療的なアプローチではなく
「社会復帰支援とリハビリテーション」といった福祉的なアプローチも同時に行っていく所にある。
1人の患者が生きていくために何が必要なのかを
それぞれの事例から考えて行くことで、患者を孤立させないことにある。
入院による拘束と隔離は患者本位ではなくて病院の都合によることが多く、
患者の人権が無視されているからこそ、この在宅ケアは新しい精神医療への希望になればいいなと私は思った。
またこの本では、イタリアは精神病院を廃止して在宅を中心とした医療サポートに転換したということが書いてあり、
日本もそうなってほしいと感じた。
統合失調症(筆者はこの名前に改称する仕事もしている)と名前が変わっても、いまだに誤解と偏見と差別が後を絶たないのだから。

こころの医療 宅配便

こころの医療 宅配便

精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本

精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本