夕刊紙はこうして生まれた

「夕刊流星号 ある新聞の生涯」(1981年・新潮社)もマスコミに関心のある私にとっては、掘り出し物の一冊でした。著者の足立巻一氏は、実際に大阪で編集発行されていた「新大阪新聞」で記者から編集幹部まで勤めていただけに、この内容はそのまま戦後の新聞の歴史の一面をそのまま伝えています。大手新聞(朝日・毎日など)の新聞用紙の割り当てが少ないなかで、社員対策と夕刊発行不能のために創刊された「流星号」は部数は少なくても、新聞の理想を追求し文化色の強い紙面をつくる、めざすは「ロンドン・タイムズ」だとなるはずだったのが、それも創刊して2年たらずで大手紙が夕刊を発行できることになったことからその理想を放棄せざるをえない状況に追い込まれていく。大手紙(毎日)からの出向社員の引き上げ、新聞印刷からの締め出し。新しい印刷所を捜したらそこには読売新聞の大阪進出に至る策謀がからみ、「まともな新聞が出来ない」それゆえに大手紙の夕刊との競争に敗れ部数減、経営陣の交代などでまさに1つの新聞が崩壊へ向かう物語が続きます。その歴史のはてに生まれたのが「東京スポーツ」「夕刊フジ」「日刊ゲンダイ」のような「事件・芸能・ゴシップ」を中心とした今の夕刊紙のルーツ、それが「夕刊流星号」の末路というわけだったのです。大手紙と同じような編集、販売、事業はできないから差別化を図らざるをえなかったという訳です。それにしても大手紙の社史には出てこない新聞業界の激闘を描いていて貴重な一冊です。インターネットが当たり前になる中で新聞が苦しくなっている時代だからなおさらです。