もとコメディアンのウクライナの大統領が「ロシアとの戦い」を選択するまで

 

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先月27日の東京新聞朝刊は

いまから4年前の2019年(令和元年)6月30日の

サンデー大図鑑を14・15面に再掲載した。

ウクライナ 欧米とロシア対立の最前線」がメインテーマで、

副題はこれだった。

「『刷新』に挑む大統領はコメディアン」。

この年に行われた大統領選挙で勝利した

ウォロディミル・ゼレンスキー氏(当時41歳)。

そこからさかのぼること4年前(2015年)、

同国内で放送が始まったテレビドラマ

「国民の奉仕者」で

経済低迷と汚職による政治腐敗と戦う

大統領の役をやって国民中の人気を集めたことから

1年前(2018年)の大みそか

電撃的に出馬表明。翌年3月末の1回目の投票で

トップの得票数を集め(候補者なんと39人!)

4月の決選投票では前大統領のポロシェンコ氏相手に

73%対27%と大差をつけて圧勝した。

diamond.jp

その背景にはチョコレート王の異名を持つ

「ロシェン」の創業者であるポロシェンコ氏と対立する

大富豪のコロモイスキー氏が

ゼレンスキー氏を後押ししたからだと言われる。

コロモイスキー氏はポロシェンコ政権下で

数十億ドルの不正融資疑惑があった

自らの持つ国内最大の銀行を国有化された

因縁もあり、ゼレンスキー大統領就任式の前に

国外の逃避先から帰国している。

さながらお金持ち(財閥)同士の対立劇が

選挙の行方を左右したといえる。

「国民の奉仕者」をやったテレビ局も

コロモイスキー氏が所有していたのだそうだ。

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ゼレンスキー氏は国会の就任演説で

「これまで国民が笑顔になれるよう励んできた。

 今後(任期の)5年間は、皆さんが泣くことのないよう

 全力を尽くす」と表明したが

やはり最大の課題はロシアとの外交交渉だ。

ポロシェンコ時代からの親・欧米路線をそのまま引き継いだからだ。

「停戦合意を仲介したドイツ、フランス両国、

 ロシア、ウクライナの4か国協議を再開することを表明」

(記事より抜粋)と具体策を示しながらも

輸出入1位の相手先であるロシアに常に押しまくられ、

さらにはNATO(北大西洋条約機構)加盟を匂わす

発言をしてきたことも

今回の攻撃行為を受けたひとつの要因になってしまったようだ。

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もっとも2014年3月にロシアがクリミア半島を併合し

さらにその翌月、

ドネツク・ムガンツク州の親ロシア派による

戦闘が激化したことで

国民感情が反ロシアに一気に傾いた経緯があるから

大統領が替わっても外交路線は変わらないというわけだが、

ロシアNIS貿易会・同経済研究所副所長(当時)の

服部諭卓氏は

ポテンシャルはあるのにそれがを発揮できていない

「惜しい国」のひとつがウクライナだと指摘している。

ソ連から独立した当時は520万人の人口規模が

350万人(2018年国連予測)まで減少し、

国民の大半が他国へ出稼ぎに行く始末だという。

この原因を生んだのが新興財閥と政治腐敗であり

手垢のついていない国民的人気者に

国民が最後の期待をかけたが

ロシアから戦闘行為を浴びるという

悲劇的状況になることまでは

だれも予測できなかったというより、

予測できても

だれも止められないと思ったことが悲劇だと思う。

唯一の救いがあるとすれば

世界中でロシアの攻撃行為を批判する声が

大きくなっていることだが、

首都キエフや第2の都市ハリコフも大きな攻撃を受けた。

そして暗殺部隊まで送られたという情報まで入っている。

命を投げ出すことも厭わないのだろうか。

まだそれが見えないままだ。

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(3月2日発売の日刊ゲンダイより。)

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