きのうは広島の原爆忌 もうひとつの「はだしのゲン」

広島の原爆を描いた漫画といえば

中沢啓治の「はだしのゲン」だが、

この作品を世に出す以前から

自身の体験をそのまま劇画で記録した作品や

(3年くらい前に平和記念資料館で見た)

原爆と広島をテーマにした短編も

数多く書いて来たそうだ。

f:id:shiraike:20200806234547j:plain

6月に船橋ららぽーとに行ったときに

近くのブックオフで見つけて買ったのが

上の写真のこの漫画集。

小学館クリエイティブ発行・小学館発売 2013年)

その中に中沢啓治の作品もあった。

f:id:shiraike:20200806235244j:plain

「黒い鳩の群れに」

パン助とヒモの兄妹。

妹に暴力を働いて無理矢理「夜の街」で働かせる兄。

はた目から見れば「人間のクズ」と見てしまう存在。

しかし、物語は予想外の展開に

相手を見つけた妹は一切交わらない。

なぜか?妹がその顔のすべてを見せたら

相手がみんな逃げてしまう。

原爆で負ったケロイド(やけど痕)のためである。

そして兄も地元とのヤクザとケンカして死ぬ。

丸二日家を締め切って泣き続けた妹。

心配した近所の人が訪ねると

妹の傍らにあったのは

2つの骸骨と白い塊。

あの原爆で死んだ両親と兄の遺骨。

兄だけが白い塊、骨で残らなかった。

そう、原爆症のためにまともに働けず、

病院にいっても

なぜか紹介されるのはABCCなど

「医療標本」を求める機関ばかり。

自暴自棄でいつ死ぬかもしれない中で

公的扶助なしに生きていくために

世間から後ろ指をさされても

この商売に手を付けるしかなかったのだ。

 

「『黒い鳩の群れ』に、広島の太田川一帯の

 バラック密集地が描かれていますよね。

 私が広島ヤクザの知人から聞いた

 敗戦後の暮らしぶりもほぼこれと同じでしたよ。

 この作品の主人公の兄妹はヤクザではないけれども、

 被爆者を見捨てた戦後社会への報復として、

 自分たちが不法な生業で生き延びざるを得ない

 状況を、ある意味正当化しているようにも見えます。」

これは巻末の解説対談より、

作家の宮崎学氏の感想だ。

それに対して鈴木邦男氏(元・一水会代表)が

「救いのない話ですが、

 映画や小説なら重すぎて

 なかなか気持ちが入りにくいけれど

 漫画なら読めてしまう。(以下略)」

両氏はともに

原爆は空襲同様

大規模な民間人を巻き込んだ攻撃によって

日本人の戦闘意欲を叩きつぶすという意図があったと指摘。

そしてこの作品は

けっしてアメリカは

戦後も一貫して、自由社会を守る

「正義の国」ではないと。

さらに日本軍のインパール作戦と同じように

原爆投下にブレーキをかけようとした動きがなかったことで

あの戦争は日米ともに

「戦時中には無謀な戦術に疑問をはさむより、

 間違っていても勇ましい声のほうが通ってしまう点」で

違いがなかったと。(カッコ内は宮崎氏の意見より抜粋)

だから、

この無謀な行為の果てに

遺されたものは何かということを

伝えなければいけないこと。

中沢啓治はさながら

故郷である広島をずっと見続けて

そこからあの忌まわしい時代を

いかに描いていくかを考え続けて

その最中に生涯を閉じたのではないかと。

後に残された者の使命として

せめて「はだしのゲン」を知ってもらうこと、

ここから始めていかなければと思う。

 

「鳩か 平和の‥‥

 あたしらは

 真黒に押しつぶされた

 平和の鳩か‥‥」

(最終ページの妹・友子のセリフより)

 

今回のブログに差別的用語がありましたが

作品の内容をより知ってもらうために

使用しました。

悪しからずご了承ください。

www.hpmmuseum.jp

news.nifty.com

shiraike.hatenablog.com