「ラスト・トーキョー」で見た、見えなかった「新宿」

新宿で生まれ育ちながらも

「歌舞伎町は危険だから行くな」

と母親からずっと言われて

社会人になって再び実家に戻ってくるまで

その約束を守り続けたディレクターが

国家戦略特区として生まれ変わるという情報から

歌舞伎町を中心とした

新宿の深い闇を見るために

1年前の夏から足を踏み入れた。

27日の深夜に見た

NHKーBSスペシャル「ラスト・トーキョー“はぐれ者”たちの新宿・歌舞伎町”」

(地上波の総合で再放送)は

普段通り過ぎたり、民放のドキュメントや

ドラマ、または劇画物でも出てこなかった

ほんとうに深い、というより

ずっと生き続けている新宿の姿をありのまま映し出している。

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歌舞伎町の俳人集団「屍派(しかばねは)」は

新宿センター街のとあるアパートの2階に集まって

酒を飲んだり雑談をかわしながら互いの句を評価しあう。

その場所は「砂の城」と呼んでいる。

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(画面では見にくいので「居場所ならここにあったよ歌舞伎町」

 これに「キャッチコピーだね」また「NHKのようなこと書くなよ」との評も。)

ここに出入りしている人たちには生きにくい理由を抱えた人が

たくさんここに来ている。

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五十嵐筝曲さんは双極性障害にかかり

自宅療養を続けながら俳句を続けているが、

2019年まで悩みづづけて思い通りに詠むことができない日々が続いた。

その姿を見守ってきた主宰者の北大路翼さんも、

一時は若手に句会を任せることも考えた。

体調が悪くなってしまったことからだった。

しかし2019年、センター街が明るくなって

観光客むけに入りやすい店が多くなった時に

北大路さんらは「砂の城」で

極彩色のような空間で楽しく呑んでいたのだった。

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(このパーティーに参加した木村哲雄さんは「LOVE CITY」を見せてくれた。

 アーティストとして再開発する新宿への理想を訴えている。)

番組のディレクター、柚木映絵(てるえ)さん(33)の

母、佳江さん(71歳)は27歳の時から生き続けて

自分は新宿のネズミだという。3件の麻雀店を営んでいるが

家庭の事情でひとり新宿に行き着き、

ここの地面から多くの人たちの出会いなどを積み重ねて生きてきた。

そしてこの街の良さと悪さのすべてを受け入れて

生きてきた歴史もこの番組で知る。

それは声高い主張ではなく、これまでの人生の振り返りなのだ。

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(映画にもなった新聞配達の「新宿タイガー」さんと佳江さん、長いおつきあい。)

佳江さんは夫・次郎さんの病気と安い若者向けの同業者が増えたことを機に

2019年春を前に店を閉じようかと思った。

しかし、平成最後の日を娘・映絵さんととも

店で迎えた。

自分の歴史を表向きにせず、周囲とのさりげない関係を大切にしてきた

佳江さんを見続けたことで、

これからもこの新宿の変化を見続けようと思った娘と

そして感謝の言葉をかけた母。

制作した者にとっても全てがドキュメンタリーになったこの作品。

わたしもこれからの新宿がどう変わるかが気になる。

とくに外装を工事する「砂の城」はこれからも

「屍派」が集まる拠り所のままでいられるのかどうか。

私は昼の「深い」新宿の姿しかみたことがないままだ。

www6.nhk.or.jp

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