演劇「焼肉ドラゴン」はよかった

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きのうNHKハイビジョンチャンネルの「プレミアムシアター」で、
2008年に新国立劇場で行われた
日韓合同制作公演「焼肉ドラゴン」を見た。
昭和40年代の大阪の基地(飛行場)に近い
在日朝鮮人の営む焼肉屋を舞台に
家族と周囲の人々の泣き笑いを描いた作品だが、
演じる人たちのそのエネルギッシュな動きに
自分たちのありのままの生き方を素直に投影している。
この姿にいっぺんに引きこまれて最後まで見てしまったのだ。
焼肉屋一家は夫・妻・3人の娘と長男で構成されていたが
娘たちは夫と妻のそれぞれの連れ子で、長男だけが唯一の実子だ。
次女の結婚祝いから始まる舞台は
婚姻届を入れる前に夫婦けんかになり
それがやっとおさまるが
次の幕では理屈ばかりこねて働かない夫と衝突した妻は
うどんの汁を樽で運ぶ仕事をしていた在日の男に惹かれ浮気する。
(樽をひっくり返して泣きながら焼肉屋に駆け込んだことがきっかけ)
そして次女は離婚してその男と結ばれたが
実は前夫が本当に愛していたのは長女であり
自分のおかげで左足を不自由にしてしまった負い目から
恋へと変わってしまったのだ。
しかし韓国からやってきた同胞の男が恋敵になる。
三女は歌手になる夢をもっていたが母親に反対され
前妻の存在を隠していた日本人を愛するようになる。
しかし日本人・長谷川は離婚して全てを整理したのにもかかわらず
結婚をやはり母親に反対される。これには父親である店主は
「2人はもう大人だ、結婚を許す。」
「あなたの子じゃないからそんなことが許せるのよ!」
「おれは分け隔てなく自分の子どもとして育てた。
 これは私の運命、おまえの宿命なんだよ。」
長男は私立の中学でいじめに合い、学校をときどき休むようになるが
父親は「差別と闘わなければいけないんだ。いじめに負けてはいかん。明日は学校に行け」と諭し
母親がそんな長男をかばい、なぐさめる。
だが長男は結果的に自死の道を選ぶ。
やがて万博ブームに沸く中で、国有地であることを理由に
焼肉屋の強制撤去が決まり
長女は次女の前夫とともに北朝鮮の帰国事業に参加、
次女は夫と新居に移り
三女は長谷川とともに東京にいくことになり
「家族はみんなバラバラになってしまった。」
「これも私の運命、おまえの宿命だ。」
始終けんかが絶えなくて、朝から酔っ払っている人が自分の店にたむろして
共同水道の前ではオモニたちが噂話ばかり。こんな町は嫌いだった、
でも店がなくなって人がいなくなって、本当は自分はこの街が好きだった。
それにやっと気がついたときは遅かった。
いや、そこに生きた人がこの街のことを忘れないかぎり
絶望におぼれて人生を捨てることはないだろう。
戦争、その後の南北分断、それに翻弄される在日、差別
これらの問題を織り込みながらも
この舞台に重々しさを感じなかったのは
三丁目の夕日」のような、生きているという実感を
ふれあいとぶつかりあいの中で得てきた人々を主役にしているからだと思う。

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