ETV特集「病院は建てたけど」から松戸市立病院の問題を再考する

23日にNHK教育テレビで放送された、ETV特集「病院は建てたけど―地域医療・混乱と模索の現場から―」を松戸市立病院の問題を再度考えるために見た。
この番組では青森県十和田市立中央病院が経営再建に乗り出した例と、同じ県内の東金市が東金九十九里地域医療センターの建設を争点に市長選が行われる一方で、
廃止が予定される県立東金病院が地域住民とともに医療の在り方を見つめ直している例を取り上げていた。
十和田市松戸市と同じ理由(耐震性と施設の老朽化)で新病院を建設し、2008年にオープンしたが(総工費164億円、市の人口約6万人)、2002年から黒字だった経常収支が
赤字に転落し、08年度は約18億円に膨れ上がり十和田市の財政が破たんに追い込まれるところまで来た。
そこで改革プランを出したがやはり赤字は減らず約20億円まで増えたことで、民間人を経営委員に迎えて病院の経営を市から切り離し
経営面の抜本的な見直しを行おうとしたのである。
それではこの原因を作ったのは誰なのか。市が病院建設をするにあたり経費と耐震性を考慮したうえで新しい工法を採用した建設計画
を組んだが、市議会が地元業者の参入を要望する決議を採択したため、計画を変更されると同時に(建設費が予定では140億だった。)、
当時の小泉政権医療制度改革のもとで大学医局制度が変わり、自治体病院に医者が供給されなくなって医師看護師不足が十和田市でもおこり
新病院開業後も建設費を返すどころか病院事業の赤字が大きくなり、当初の計画が破たんをきたしたのだ。
当時の市議会では、地元業者の参入について「50年あるかないかの大きな公共事業、地元業者が参加することが地域の発展につながる。」
と市議からの提案理由にあったことから地元にとっては「医療の充実」よりも「公共事業」のほうが優先されたことがハッキリとわかると同時に、
高い病院建設費とその影響による経営赤字が、
専門性のある医療の充実(十和田の場合は末期ガンのケア)で、地域のニーズをつかむ「病院」としての当たり前の仕事ができないといった皮肉を産んだのだ。
結果的に病院経営は独立採算で経費面の改善を進め、建設費は市が責任をもって返すことになったが、
現場スタッフが医療の充実と経営改善の両面で大きな責任を負うことになるから苦悩はなおも続くことになる。
東金市ではやはり県立病院の老朽化により新しい医療センターの建設(県・東金市九十九里町と共同で)が計画されたが、
市長選では建設を推進する現職に対して、計画の見直しを求める3人の新人が出馬したから来月市長選が行われる松戸市と同じだ。
そして県立病院では予防と慢性期医療を中心にやってきたのに対して、新しい医療センターでは救急と急性期医療が中心になることで
住民から今後の不安がでることになるという点も、今の松戸市立病院と同じだ。
東金では千葉大医学部(これも松戸市立病院と同じ)からの医者が大量に引き上げたことから院長や地元住民が危機感をもち、独自の制度をつくって全国から慢性期医療を東金で学ぶ医者たちを
互いの協力と協調のもとで積極的に受け入れ、内科医を増やしてきた(2006年は2名だったのが、2010年で10名)実績があるのにもかかわらず
新しい医療センターでは千葉大からの派遣で100%まかない、大学臨床教育センターの設置などで56名の定員を確保するとしているが(東金病院は約30名)
このやり方はいままでの県立病院の努力を全て否定することで、実際に奄美から東金に来たある医師が「新病院になったら(自分は千葉大じゃないから)もう東金に残れないかもしれない。」と語っていたのは強く印象に残った。
市長選は結局現職が勝ち、新しい医療センターは建設へ向かうことになった。総工費は約142億円。
この番組を見て、松戸市立病院が抱える問題点である
「建設費」「東松戸病院が抱える慢性期病棟の今後」「医師看護婦不足」「新病院開業後の経営」を
新病院の建設を推進するだけで全て解決することはできないということが改めてよくわかった。
松戸のように、小児周産期病棟を充実したうえで一般病棟を400床も維持していくとなると医師をはじめとするスタッフを増やさなければ
いけないが、その供給元をどこに求めるのか?東金が千葉大との提携を深めるとなると、松戸は今まで通り千葉大に依存するやり方が
できなくなるかもしれない。それこそ県立東金病院のやり方をまねる必要もあるし、そのためには市民に対して「病院事業基金」だけではなく
「市立病院の医師を増やすための協力」をお願いしなければならない。
それがダメなら基本計画に書かれた目論見通りに新病院開業後の経営を安定状態に導くことができないと思う。
松戸は東金より東京に近いとか北総線は成田空港まで延びるし東松戸の人口が増えるから大丈夫だろうというのは理由にならない。
自分たちにとって頼りになるはずの病院がやれ経費削減だやれ効率的な医療経営だと常にギスギスした空気に包まれて、
医者と看護師がいないからといって肝心の病棟が閉鎖されてその挙句救急車でも受け入れられないとなったら
何のために病院を新しくしたかわからなくなるでしょう。
じつは「住民投票を実現させる会」も約3万の署名が集まったときに、
「今後市立病院がよりよい存在になるために住民レベルで今後の病院の在り方を考えて提言していきたいと思います。」
と表明している。
しかし病院経営に関して松戸市は市議会と連携して検討していくとしており、市民に対しては
「新病院の設計デザインについて」しか意見を聞こうとしていない。
これでは松戸も十和田市のようになってもおかしくないわけだし、
市立病院の将来像を市役所まかせにすることはもはや許されないことだと思ったし、市民が病院経営の最終的な責任を負うことになる以上、大幅な見直しの声がたくさん出たことに対して
市はもっと謙虚にその声をうけとめるべきではないかと思った。
また国が定めた病院などの建設工事に関する算出基準で建設費を設定すると、民間企業が設定するよりも3割高くなることで
鹿児島県は病院建設費用の見直しを行ったという例も紹介されていて、
国も自治体病院の建設と経営の在り方で自分たちが自治体に押しつけたことを改めなければいけない問題をこの番組で抽出していた。